契約書・契印の法的義務について

法律と聞くと、なにかとても難しいものに感じられて、つい敬遠しがち。
でも法律とは簡単に言えば、社会に秩序をもたらすためのルール。
これなくして、私たちは落ち着いて暮らすことはできません。

普段、意識することはあまりなくても、私たちの日常生活は、さまざまな法律に支えられています。
ここでは、法律に関する話をご紹介していきます。

今回は、契約書について。法律上の定義において、契約とは「当事者間の相対立する意思表示が合致することにより成立する法律行為」をいいます。

簡単に言えば、契約とは自分も相手も納得した上で決めたこと。
国が契約を守らせる力を持っています。

契約の内容を文書にしたものが契約書です。
契約書は、当事者が行った法律行為そのものを直接説明できる文書で、いつ、誰と誰が、何について契約したのかが記載されています。
契約書を作成する最大のメリットは、記録が残ることです。

■ 日本の法律では契約書作成は義務化されていない

日本の民法では、売買や業務委託等の契約は、原則として契約内容について当事者間の意思の合致があれば成立します。
口頭の口約束や、メール、チャット上のやり取りだけでも法律上は正式な契約として成立します。
しかし、口頭で合意しただけでは、契約があったことや、その内容を証明することができないため、普通は契約書が作成されます。

■ 契印の義務・1

登記のルールを定めた法令・・・「商業登記規則」や「不動産登記規則」
・公証人・登記官を対象にした、提出文書を作成する際のルール
・登記の申請書が複数にまたがる場合、契印を押すよう条文に定められています。

「商業登記規則」第三十五条3項および4項(1,2項略)

3 申請人又はその代表者若しくは代理人は、申請書が二枚以上であるときは、各用紙のつづり目に契印をしなければならない。
4 前項の契印は、申請人又はその代表者若しくは代理人が二人以上であるときは、その一人がすれば足りる。


■ 契印の義務・2

私人同士(民間対民間)では契約書を作成し、締結する際の義務を定めた法令はありません。
・契約書が複数枚になっても、製本の義務は法律で定められていない
・契印、割り印がなくても法的効力は変わらない
・ページ差し替え等による改ざんの不安があっても、契印無しで契約は有効に成立する。

■ 押印に関するQ&A

新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを推進している経済産業省は、内閣府・法務省と連名で、契約における押印についての考え方を「押印に関するQ&A」としてまとめています。
・押印に関するQ&A

Q1. 契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。

・私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
・特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。


■ 電子署名機能

電子署名は、「電子署名及び認証業務に関する法律」(以下「電子署名法」)において、電子署名が付されているときは文書の真正が推定されるとされているため(同法第3条)、電子署名がある文書は、紙の文書への署名又は押印と同様の法的効果を有するといえます。

“第3条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。”

契約書の作成はもともと契約の成立要件ではないため、電磁的記録で契約を締結・保管しても契約が無効とされることはありません。
電子署名機能が実装された電子契約は改ざんを防止できる上に手間いらずのため、今後紙の文書に代わって主流になっていくと予想されます。

■ 電子契約サービスに関するQ&A

2020年7月17日に総務省、法務省、経済産業省の連名で「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」が公表されました。
・電子契約サービスに関するQ&A

電子署名に関するサービス提供者の意思が介在せずに、当該サービスの利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合、電子署名法上の「電子署名」の要件を満たすという解釈指針が示されました。

“利用者が作成した電子文書(デジタル情報)について、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行うサービスにおいて、例えば、サービス提供事業者に対して電子文書の送信を行った利用者やその日時等の情報を付随情報として確認することができるものになっているなど、当該電子文書に付された当該情報を含めての全体を1つの措置と捉え直すことよって、電子文書について行われた当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には,これらを全体として1つの措置と捉え直すことにより、「当該措置を行った者(=当該利用者)の作成に係るものであることを示すためのものであること」という要件(電子署名法第2条第1項第1号)を満たすことになるものと考えられる。”

今後は、一般電子署名も電子署名法上の「電子署名」として扱える可能性があると明言されたと考えられます。

2020年10月17日